映画『女流闘牌伝 aki -アキ-』を観て思ったこと。(主演:岡本夏美/二階堂亜樹役) 感想・評価・レビュー
2017年6月3日~6月16日、2週間限定で映画『女流闘牌伝 aki -アキ-』が上映された。私も、映画館で二度鑑賞させて頂いた。
一言でいうと「また観たい素晴らしい映画」であったが、具体的にどういった点が良かったのか? 以下、感じた事を率直に述べてみたい。
※いつもと文体を変えて「である調」で書いています。「二度目の映画鑑賞」後に記事を加筆修正済み。5,000文字以上の長文です。
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[更新日:2017/08/23、公開日:2017/06/15]
雀荘で生まれ育った少女・アキ。15歳の冬、ボストンバッグひとつで東京にやってきた彼女が求めたのは、自分の力だけで勝ち取る「本物の人生」だった。自身が持つ唯一の武器「麻雀」によって生きることを決意するアキ。
しかし、その前に立ち塞がる汚い大人たちと大都会の現実…。しかし、少女雀士・ひまわりと【ミスター麻雀】小島武夫との出会いが、彼女の「人生」と「麻雀」を大きく変えていくのだった…。
©2017 花崎圭司・大崎充/竹書房/『aki』製作委員会
早くも、DVDのレンタル・セルがスタート!
DVDレンタル開始日:2017年7月5日(水)
DVDセル発売日:2017年8月23日(水)
セル版の特典として、約70分の「メイキング」映像、岡本夏美氏や増田有華氏も登壇した「初日舞台挨拶」、人気女流プロ(二階堂亜樹・高宮まり・東城りお)3人の「トークイベント」の映像が収録されている。
一体どんな映画なのだろう?
まず、私が上映前に気になっていたのは、「一体どんな映画なのだろう?」という点。もちろん麻雀の映画だという事は知っていたが、「どういったテーマで、制作陣が何を伝えたい映画なのか」気になっていた。
私が観て感じたのは、
【 重苦しい雰囲気ながら、心温まるヒューマンドラマ 】
だという事。
映画予告編を観て分かるように、全体的に画面も暗めで重厚なテイストとなっている。
「自分の生きる道」「現実の厳しさ」「覚悟を決めた瞬間」「親子愛」といった誰もが共感できるテーマについて描かれていて、登場人物に感情移入できる内容。
実在する主人公の亜樹(アキ)には、1つ年上の姉・瑠美(ルミ)がおり、現在2人とも麻雀プロとして活躍中。『明日は、今日より強くなる 女流プロ雀士 二階堂姉妹の流儀』(KADOKAWA)を共著で出版するなど「二階堂姉妹」として有名だ。
映画では「姉妹愛」も描かれており、中山絵梨奈氏が演じる大人になった二階堂瑠美のセリフは、胸に刺さるものが多い。
また、よく考えられた闘牌シーンも描かれており、麻雀ファンはより一層楽しめる作品である。
キャスティングが成功している
原作マンガが2冊刊行されている『aki -アキ-』。内容は原作マンガを忠実に再現したものではなく、原作の世界観を元に「映画向けに再構築」されている印象だ。
原作を読んでいなくても充分に楽しめるが、「小島武夫プロとの公園での出会い」「ひまわりとのケーキ屋での出会い」など原作マンガを知っている人がより一層楽しめるシーンもある。
また、映画を鑑賞して、
【 岡本夏美氏が演じる、主人公アキの出演シーンが非常に多い 】
と感じた。主人公であるから当たり前なのだが、上映時間85分と長編映画としては短い事もあり、ずっとアキを中心にストーリーが展開されていた。
映画予告編にも「私ひとりで大丈夫だって」という言葉があるが、単身、東京に出てきて「一人で生きていこう」とするアキ。漫画喫茶に寝泊まりするなど厳しい生活ではあるのだが、岡本氏が爽やかに演じており、「アキちゃん頑張って」と応援したくなる。
15歳の役柄である為、まだ未熟な面もあるアキだが、その辺りもうまく表現されている。個人的に、実写映画化は「大成功」だと感じたが、それは主演・岡本夏美氏の好演によるところが大きいと思う。
麻雀を打つ場面でも、牌さばきや切り方。発声など細かいところを含めて「雀士」として自然な演技だった。
もちろん脇を固める出演者の演技も非常に重要なのだが、映画における「主人公」のキャスティングや演技の出来栄えは「主要成功要因」、「KSF(Key Success Factor)」であると改めて感じた。
岡本氏の出演シーンに関しては、特に何も不満は感じなかったし、100点満点を差し上げたい熱演だと思ったが、本作に登場する麻雀シーンに関しては、違和感があった場面もあり、正直100点満点だとは思わなかった。
以下では、麻雀シーンに関して詳しく述べてみたい。
麻雀初心者も楽しめるように工夫されている
私自身は、麻雀歴20年以上。麻雀戦術書も多数愛読し、麻雀対局番組も頻繁に視聴する麻雀フリーク(愛好家)である。
「できるだけ麻雀初心者の気持ちを想像したい」と感じながら、自サイトにおいて麻雀ルールの解説もしているが、自分が詳しくなりすぎて、この映画『女流闘牌伝 aki -アキ-』に関しては
【 麻雀を知らない人も、この作品を観て楽しめる 】
のか? どうしても想像しづらい。
この点は制作サイドも充分に考慮したと思うが、ツイッターなどで観客の反応を見る限りにおいては、おおむね「麻雀を知らなくても楽しめた」と好評のようである。
※ 映画鑑賞者の感想は、『aki』公式ツイッターのリツイート等を参考にして欲しい。
麻雀マンガや映画でよく用いられる手法に、対局している4人以外で
【 観戦しているギャラリーの心の声で、対局内容が解説 】
されるというものがある。
映画『女流闘牌伝 aki -アキ-』においても、対局を観戦している「雀荘のメンバー(店員)」や、彩輝なお氏が演じる「面影玲子(アキのライバル・ひまわりの母)」が心の声で対局を解説してくれている。
この手法が成功していて、麻雀を全く知らない人でも、
「詳しくは分からないけど、いい手をあがったんだな」
「アキちゃんは今、苦しいな」
などの状況が分かりやすくなっている。また、アキ本人の心の声も頻繁に聞こえる。
ただ、自分が想像していた以上に、「牌譜(はいふ・ぱいふ / 囲碁・将棋の”棋譜”に相当)」が練られた本格的な闘牌シーンが多いと感じた。
一例を挙げると、
★ひまわりが(ピンフ・純チャン系で安めの)ツモ・ピンフの手をあがらずに、純チャン狙いのフリテンリーチを行ったシーン。
★ひまわりの捨牌、「5萬トイツ落とし」に、アキが敏感に反応したシーン
★最終局でのアキの切り順(詳細は内緒にしておく)
などだ。映画関係者の方々が、「この映画は麻雀を知らなくても楽しめます!」というのは確かにその通りだが、「麻雀を知っている方はより一層楽しめます!」というのが的確な表現であろう。
エンドロールに神楽坂「ばかんす」など撮影協力店の雀荘名が4つほど挙がっていたが、それらの雀荘を利用した事がある人も楽しく鑑賞できるだろう。
注目は宮内こずえプロの登場シーン
麻雀ファン、女流プロファンの方への注目点として、日本プロ麻雀連盟所属の人気女流プロの出演が挙げられる。
二階堂亜樹プロ(本人)、宮内こずえプロ、和泉由希子プロ、魚谷侑未プロ、高宮まりプロ、東城りおプロ、小笠原奈央プロ(順不同)の7人が出演。
麻雀を打つ姿など「雀荘シーンで登場する」のは想像通りだったが、宮内こずえプロだけ雀荘以外での登場シーンがあり、私もニヤりと笑って思わず映画館で声が出そうになった。(私が観た時、宮内プロの登場シーンでは館内がどよめいていた)
二階堂亜樹プロ(本人)の出演シーンと共に、宮内プロの役柄にも注目して欲しい。
以下は細かい点が多いのだが、麻雀シーンで違和感があった3点を取り上げたい。
小島武夫プロの点数申告が「ツモ4000、8000」ではなく、「ツモ8000、4000」になっている。
1点目。かなりの麻雀好きであっても知っている方は少ないと思うが、競技麻雀では「子の点数、親の点数」の順番で申告するという競技規定を設けている事がほとんどである。
(念のため「日本プロ麻雀連盟・最高位戦プロ麻雀協会・日本プロ麻雀協会」の公式サイトで競技規定を確認したが、全て「子・親」の順番で申告するように明記されていた)
アマチュア雀士の役柄であれば、特に気にしなくても良いと思うが、ミスター麻雀・小島武夫プロが倍満をあがった大事な場面でのセリフであるのだから「ツモ4000、8000」と言って欲しかった。
まぁ、これが気になるのは、競技麻雀に詳しい人のみであると思うが・・・。
この点以外は、岩松了氏が演じる小島武夫プロの演技は素晴らしかった。小島プロの 「気さくさ・人懐っこさ」や「魅せる麻雀の格好良さ」 がしっかりと表現されていたと思う。
ひまわりがロンと言ってから手牌を倒すスピートが早い
2点目。増田有華氏が演じる、ひまわりがロンと言ってから手牌を倒すスピートが凄く早い点も気になった。ロンと言ってから倒すまでの間(ま)がほぼ無かった。
アキのライバル・ひまわりの「凄く強気で、勝ち気」な性格を表す上で、演出上わざとやったのかもしれないし、エンターテインメント作品である映画のワンシーンとしては「アリ」だが、実際に麻雀を打つ時は、あの動作は真似しないほうが良い。
細かい実践ルールの話になるが「ロン」と発声しても、自分の手牌がノーテンであったり、フリテンである場合がある。
※本来あがれない時に、「ロン」と言ってしまった場合、「誤ロン(ごろん)」となる。一般的なルールでは、誤ロンしても自分の手牌を倒さなければ「あがり放棄」、手牌を倒すとより厳しい罰則の「チョンボ」となる場合が多い。
ある著名なベテランプロも、「ロン」と言った後に、必ず自分の手牌を確認していると仰っていたが、自分が「ロン」と発声した直後に、自分の手牌でアガリが本当に成立しているか確認する癖をつけた方が良い。
(なお、同様に他人が「ロン」と言った時も、アガリが成立しているか必ず確認すべきである)
まぁ、こちらも細かい点ではあるが、麻雀愛好家としては気になった点だ。
[追記] 二度目の鑑賞時に注意深く観察した所、ひまわりがロンあがりしたシーンでは「ホンイツ・トイトイ系」「早い巡目のリーチ一発」などフリテン等になりづらいケースだったので、映画のシーンとしては、それほど問題ないと感じた。血気盛んな、ひまわりらしい動作とも言える。
その他の増田氏の演技については、手つきや、牌の切り方など短期間で麻雀を覚えたとは思えないほど「強い打ち手」を感じさせる好演だった。
目ヂカラも強く、美人で気が強いひまわり役として適役、ハマり役だったと思う。
高城(たかぎ)というキャラクターのマナーが悪すぎる
3点目。予告編動画でも、松浦裕也氏が演じる高城(たかぎ)がアキにキレているシーンがあるが、劇中ではもっとマナーの悪いシーンが放映されている。娯楽作品として私も印象に残る面白いシーンと感じたのだが、
「麻雀のイメージアップ・社会的地位の向上」を目標としている私としては、影響力が大きい映画というメディアのワンシーンを観て、
【 雀荘は、ああいうマナーが悪い人達ばっかりの所なんだな 】
と「間違って認識されたら嫌だな」と感じた。
私自身、この20年間いろいろな雀荘に行った経験があるが、高城ほどマナーが悪い客は一人も見たことがない。(この人「ちょっとマナーが悪いな」という程度の人なら多数いる)
例えば、高城がアキに点数を支払う時、わざと点棒を床に落として拾わせるシーンがあるのだが、あれを「大人の社交場」である雀荘でやったら、おそらく出禁(できん/出入り禁止)になるのではないだろうか?
麻雀店に勤務した経験のある人なら、もの凄くマナーの悪い客を知っているかもしれないが、自分が客として雀荘に行く限りでは、「あそこまでマナーの悪い人をみかける事は、ほぼ無い」と思って間違いないだろう。
二階堂亜樹プロ自身も、日本プロ麻雀連盟公式サイトに掲載されているインタビュー内で、
“実際には、まったくキレられるようなことはなくて、ものすごく可愛がってもらいましたよ。みんなとても優しかったです。“
と語っている。
繰り返しになるが、高城の出演シーンは映画として印象に残る「見どころ」が多く、私も楽しませて頂いた。
岡本夏美氏がLINE BLOGの「V.I.P. Press」インタビューで語った内容によると、「(道で)高城に絡まれて、罵声を浴びせられるシーン」では、迫真の演技だったのだろう、撮影を見た通行人の方や、近所の居酒屋の人が心配してくれたそうだ。
以上、3点細かい指摘をしたが多くの方は気にならないと思うし、麻雀を知らない人も「麻雀って面白そう」と感じる内容になっていると思う。この映画をきっかけに、麻雀を覚える人が増えてくれたら麻雀ファンとして嬉しい限りだ。
一冊「麻雀入門書」の推薦書として、二階堂亜樹プロが監修した『麻雀を始めたい人のために』(成美堂出版)を挙げておきたい。
主題歌は「たおやかだ~aki~」
映画のエンディングに流れる曲は、シンガーソングライター・町あかり氏の『たおやかだ~aki~』。
「たおやか」意味
1 姿・形がほっそりとして動きがしなやかなさま。「たおやかな少女のからだ」「たおやかになびく柳」
2 態度や性質がしとやかで上品なさま。「たおやかな女性」「たおやかな身のこなし」
(デジタル大辞泉より)
“たおやか”というフレーズが耳に残る曲『たおやかだ~aki~』は、7/26(水)発売のアルバム『EXPO町あかり』に収録されている。
全国3箇所、2週間限定上映
この『女流闘牌伝 aki -アキ-』は2週間限定上映で、東京(新宿)・大阪(心斎橋)・愛知(名古屋)の3箇所でのみ上映された。私は、映画産業の「儲けの仕組み」について詳しくないのだが、随分と思い切ったプランだと思う。
時期は分からないが、DVDやブルーレイのセル・レンタルも開始されるだろう。そちらで収益があがる構造なのだろうか?
[追記] 先述の通り、レンタル・セル情報は以下の通り。
DVDレンタル開始日:2017年7月5日(水)
DVDセル発売日:2017年8月23日(水)
北海道や沖縄の方など、映画館に行きたくても遠くて行けなかった方は、ぜひDVDで視聴して欲しい。きっと、ご自身の人生にプラスの影響を与えられるものを感じられると思う。
私自身は、お世辞や社交辞令が嫌いなタイプであるのだが、深みのあるこの映画は本当に「また観たい」と思える作品であった。もし「面白くない」と感じていたら、このように長文で取り上げようとは思わない。
今年2月ロードショーの青春麻雀映画『咲 -Saki-』とは全く作風は異なるが、この『女流闘牌伝 aki -アキ-』も実写化大成功と言えると思う。
2017年はマージャン映画の当たり年ではないだろうか。
以上、この記事を読んで少しでも多くの方に映画『女流闘牌伝 aki -アキ-』をご覧頂ければ嬉しい。
(文: 麻雀の雀龍.com管理人 / ツイッター@Jan_Ryu)
▼ なお、以前、二階堂姉妹の勝負論『明日は、今日より強くなる』刊行記念インタビューさせて頂いた時、亜樹プロの言葉で印象的だったのが
“私もお姉ちゃんもよく言われるのが「人生イージーモードだよね」“
という発言。客観的に見て、「かなりハード」な人生を歩まれていると思うし、この映画をご覧になった方は二階堂亜樹プロが歩んできた人生の「壮絶さ」を感じざるを得ないだろう。